『荒波 -LOVE LETTER-』には、全部で43の「自主制作」アニメーションのキャラクターをモチーフにした人々が登場します。
すべて無許可です。ごめんなさい……。
選出にあたっては、名作であること、知名度があること――だけでなく、やはり自分自身がインターネットを始めてから出会った、特に思い入れの深い作家さんを中心に選出しています(それでもいくつも漏れてしまいましたが……)。
ほんとうは年代順に並べたかったのですが、声優さんの関係や、どうしてもこのセリフをこの子に言わせるのはオカシイ! 的な意志が働きまして、ほぼランダム状態になっております。ここはちょっと、心残り……。

もしこの中からまだ出会っていない作家さんや作品があり、興味を持って頂けたら、ぜひその作品に触れてみてください(ネットで見れる作品を中心に選出してあります)。願わくばこのページが、皆様が「オリジナル」の自主制作アニメーションの世界に触れるきっかけになれば幸いです。以下の拙いんですがそれっぽく書いてみた解説文が、それを読み解く鍵のひとつとなれば嬉しいです。  (文・沼田友)
 

01.別府鉄輪地獄変(青木隆志)

アニメーションソフト『Flash』は、比較的簡単な操作で使用できたこと、優れた指導書が存在したこと……に加え、軽量なファイルサイズがインターネットにアップロードさせやすく、ウェブ発の自主制作のアニメーション・カルチャーを牽引、1998年頃〜2006年頃にかけて一世を風靡した。
2000年より公開が開始された「別府鉄輪地獄変」シリーズは、当時ショートコンテンツや一発ネタが主流だった初期のFlashアニメーションとしては異例の(第1話から)8分超えの力作で、サウスパークをイメージさせるドタバタ&シュールな展開が多くのファンを獲得した。また、第2話では作品途中で「ゲーム」シーンを挟むなど、ユニークなアイデアをいくつも残している。
作者の青木隆志はのちに、アニメーション制作のスキルを生かし「スタジオボイラー」を設立。現在はテレビコマーシャルなどにも携わる。


02.キミとボク(やまがらしげと)

元々Webデザイナーであったやまがらは、2001年に、自身が長年連れ添った飼い猫とのエピソードをモチーフにしたFlashアニメーション「キミとボク」を発表。それまで「笑い」がメインストリームだったWeb上の自主制作において、深いドラマ性と感動的な物語をえがく新分野を開拓。界隈の流行を越えた人気作品へと成長した。
『キミとボク』はその後、2011年に中村蒼主演で実写映画化。オリジナル版の「キミとボク」に「キミ」はほとんど登場しないので、このイラストは中村蒼のイメージで描いている(つもり……)。


03.ウシガエル(塚原重義)

ウェブページ「弥栄堂」にて作品を多数発表していた塚原は、昭和レトロとスチームパンクを融合させた独特な世界観と、精密なマシン描写で指折りの人気Flash作家のひとりとなった。
2003年から2005年にかけて展開された『甲鉄傳紀』シリーズの「ウシガエル」は彼の代表作であり、何故か小型戦車の形をした新型ネズミ駆除機「ウシガエル」と、それに追い掛け回されるネズミのドタバタをクラシック音楽に載せて軽快に描いている。
現在はフリーランスで活動。新作短編「端ノ向フ」が完成間近。


04.終わらない鎮魂歌を歌おう/今日も今日とてテープは回る(未乃タイキ)

不慮の事故で命を落としてしまった主人公が“魂を救う死神”と出会い、自らもまた“死神”になろうと奮闘する「終わらない鎮魂歌を歌おう」は、それぞれの立場から“死”と真正面に向き合おうとする登場人物たちのドラマを見事に描いている。
その優れたシナリオが評価され、全国の中学・高校演劇部などで戯曲化、現在も上演されているという、他の作品にはない展開をみせた珍しい作品でもある。
同じ未乃タイキの作品である「今日も今日とてテープは回る」は一転してコメディであり、依頼人が求める「音」を録音することで生計を立てる姉妹の物語。短い尺の中に笑い・ドラマ・あまずっぱい想いを見事に詰め込んでおり、完成度の高い秀作である。秀逸な脚本とドラマ性が未乃の最大の強みと言える。


05.なつみSTEP!/ひろみの絵日記/ステレオ劇場 かえりみち(たけはらみのる)

キャラクターの体を細かなパーツに分け、操り人形のように軽快に動かすスタイルを持つたけはらは、しかしその可愛らしい絵柄とは相反するブラックなユーモアをこっそりと物語に忍ばせる。特に代表作である「なつみSTEP!」は、その意味深なモチーフをめぐり検証サイトまで作られるなどカルト的人気を集め、現在でも伝説的作品として君臨している。
「ステレオ劇場 かえりみち」は、裸眼立体視に対応し、アニメーション全編を(奥行きのある)3Dで楽しむことが出来るという、珍しい作品。ある意味昨今の3Dブームを10年先取りしていた、と言える作品かもしれない。


06.フミコの告白/rain town(石田祐康)

もともと「Tele」名義でキャラクターデザインや習作などを発表し、早くから注目を集めていた石田は、京都精華大学在学中にグループ制作した「フミコの告白」がYouTubeなどで爆発的なヒットを記録。一躍「自主制作アニメーションの寵児」として注目を浴びるようになった。続く代表作、「フミコの告白」以前から構想があったという「rain town」は一転して、雨が降り続いてしまったために放棄された街を舞台に情緒的な物語を静かに描いた。圧倒的な画力と作画のセンス、独特のカラーなどが特長で、植草航らと並び、若手アニメーション作家の代表的な存在である。
近年は杉井ギザブロー監督の『グスコーブドリの伝記』の制作にも参加。東京に移住し、ブログも精力的に更新されている。


07.将棋アワー/コタツネコ/走れ!(青木純)

東京藝術大学在学中にアニメーション制作と出会った青木は、ひとりの男の人生をわずか30秒に圧縮しコミカルに描いた超短編「走れ!」から、その卓越したセンスと才能をまざまざと見せ付ける。代表作である「将棋アワー」は、某国営放送の将棋中継を模した内容でありながら、なぜか対極相手がビームを発射するロボット、というシュールなコメディを展開。現在でも根強い人気を誇っている。
かつては、「都市東京」などの作品で知られ、現在電通所属である小柳祐介とのユニット「TACOROOM」のメンバーとしても知られた。青木は現在、企業関連の受注制作から全国各地でのアートプロジェクトまで幅広く手がけている。人形アニメーション「コタツネコ」など、ネコをモチーフにした作品が多い。


08.赤ずきんと健康/YADOKARI/さようなら忍者A(井上涼)

金沢美術工芸大学の卒業制作として制作された「赤ずきんと健康」は、そのぶっ飛んだ内容と中毒性のある音楽、そしてラストに訪れる暖かなメッセージが愛おしい、一度観たら忘れられないインパクトを持つ人気作である。
作者である井上は近年アーティスト活動を本格化させており、短いながらも「赤ずきんと健康」を彷彿とさせるアニメーション「YADOKARI」や、一転してバラード調の「さようなら忍者A」(別れを惜しむ二人の友情が切ない)などを次々と発表。ほぼすべての作品でミュージカル形態をとっており、作詞・作曲・歌唱などもすべて自分でこなしている。どこかゆるいのに包容力があり、可愛らしくも中毒性の高い音楽も相まって、現在でも根強いファンを生み出している。アニメーションの向こう側にある真摯なメッセージ性が井上作品の大きな魅力である。
実写作品「SFの魔女」シリーズなどでは、本人も出演。ブログではキュートなイラストレーションも楽しめる。


09.楽園-RAKUEN-〜Flash★Bomb04オープニング作品スキマ産業/公共料金/ぴろぴと)

Flashアニメーションの隆盛と共に発展した、2ちゃんねる「Flash・動画」板を中心とする自主制作の一大ムーヴメントは、人気作家を一同に集め上映するオフラインイベント「Flash★Bomb」の開催でその熱気の頂点を迎えた。超高速アニメーションでモーショングラフィックスのジャンルを切り開いたスキマ産業が、自身の得意技を封印しコマアニメーションで制作した「Flash★Bomb04」のオープニングは、様々な参加作家が夜空に向かい手の中の光を放つというメッセージ性の強い内容で、感動的なヴィジュアルと音楽も相まって極めて完成度が高く、2ちゃんねるにおけるFlashムーブメント史上の最高傑作と言えるだろう。
2ちゃんねる界隈では珍しい女性作家であった公共料金は、のちにウェブコミック「僕らはみんな動いてる。」などを制作。アンダーグラウンドにおいても随一のオリジナリティを持つぴろぴとは、現在も精力的に作品を発表している。


10.ホリデイ/河童の腕/ギター(ひらのりょう)

多摩美術大学在学中よりアニメーション制作を開始したひらのは、3年次作品「河童の腕」で高い注目を集める。“よくわからない”のに胸が締め付けられる秀逸なストーリー、あらゆる学問からの影響をごった煮にして描かれるモチーフ、日本的湿度をもつ独特なビジュアルは、どの作品にも似ておらず、唯一無二の作風を早くから確立している。あらすじでの解説は不可能と言ってもよい、イモリと青年と女の子の切実なアニメーションである卒業制作の「ホリデイ」は、石田祐康や植草航などを退けて第17回学生CGコンテストでグランプリを勝ち取った。
雪の日に青年が猫又と出会う短編「ギター」は、ほのぼのとした雰囲気とクスッとなるラストが暖かい秀作である。
現在はマネジメントをFOGHORNに委託。omodakaやOverTheDogsなどのPV、七尾旅人のジャケットイラスト、各種ジングル制作などで活躍している。


11.2ちゃんねる系アニメーション

2ちゃんねる「Flash・動画」板からは、同掲示板の人気アスキーアートから派生した数多くの名作Flashアニメーションが生み出された。日本のロックバンドBUMP OF CHICKENの楽曲にあわせて物語が展開する「ダンデライオン」「ラフ・メイカー」はそれぞれのキャラクターを生かした秀作。緻密で可愛らしいタッチを持つ作家「ぼんで」は「特急になりたかったぞぬ」などの人気作を生んだ。破壊的なギャグが楽しい「のし」による「ッパえもん」は個人的に好きだったです。ギリギリの時事ネタとテンポの良い作風で人気だった「すなふえ」による「楽しい著作権の話」は彼の代表作。数多くのクローンを生み出した「み〜や」によるヒット作「Nightmare City」は現在も高い人気を誇る。「空耳」から派生した作品も数多い中、「恋のマイアヒ(のまネコ)」は商用利用をめぐり掲示板と意見が対立、しぼみ始めた風船は動画サイトの発展と共に、次第にFlashというジャンルそのものの斜陽と重なって衰退していった。実働わずか5年間に同板が残した功績は計り知れない。


12.オオカミはブタを食べようと思った。/ぐるぐるの性的衝動(竹内泰人)

「コマ撮り」というジャンルに徹底的にこだわる竹内は、1枚1枚撮影された写真をプリントし、それを現実世界に並べてさらにコマ撮りする手法を用いた「オオカミはブタを食べようと思った。」を制作。次々と飛び出す秀逸なアイデアとコミカルな作風が評価され、YouTubeにおいては360万再生を記録する人気作となった。ある一定の場所に24時間張り付き、移動しながらひたすらコマ撮りを続ける小作をまとめた「ぐるぐるの性的衝動」は、学生CGコンテストと国際ニコニコ映画祭という、相反するようなコンテストで同時受賞するという異例の快挙を成し遂げた。
竹内は、現在フリーランスとして、PV、テレビCMなど数多くの作品を手がけている。


13.水のコトバ(吉浦康裕)

背景を3DCG、人物を2Dで描き、登場人物たちの軽快な会話をカメラで移動させながら複雑に表現した「水のコトバ」は、吉浦にとって出世作となったアニメーションである。個人制作ながら完成度の高い映像は勿論だが、魅力的な登場人物によるウィットに富んだ会話、意外な展開、複雑ながらも観客にそれと感じさせない圧倒的な構成力が出色の作品である。
九州大学芸術工学部出身である吉浦はその後、23分間の自主制作「ペイル・コクーン」を制作。東京国際映画祭招待作品となる。2008年〜2009年にかけて発表された「イヴの時間」では、「水のコトバ」で用いた手法をさらに深化させ、ロボットと人間をめぐる平熱の物語を卓越した演出と圧倒的な脚本で見事に描き出し、数多くの新たなファンと高い評価を獲得した。
現在は「イヴの時間」に続く長編作品「サカサマのパテマ」を制作中。プロローグ部分にあたる映像が既に動画サイトなどで公開されている。


14.ロボと少女(仮)/総天然色少年冒険活劇漫画映画 ハルヲ(アオキタクト)

ロックバンドのギター・ボーカルから転身するという異例の経歴を持つアオキは、初めて手がけた自主制作にてフル3DCGアニメーション「ハルヲ」を発表。処女作ながら40分近い長編アニメーションで、応募したコンテスト・ファンの度肝を抜いた。
その後、フリーランスで映像・音楽などに携わりながら、商業作品「アジール・セッション」を制作。
2010年、アオキが中心となり6年ぶりに発表した自主制作アニメーション「ロボと少女(仮)」はニコニコ動画を中心に人気作品となり、コミカルな内容から一転して最終話では大きなカタルシスを迎える展開が話題を呼んだ。自主制作されたDVDもインディーズとしては好セールスが続いている。
発表作は多くないがそのどれもが渾身と言える力作であり、作中を通じて流れる圧倒的な熱気がアオキ作品の魅力である。


15.SANKAKU(若井麻奈美)

主人公は「三角形」。世の中のあらゆる場所にある「図形」が実は図形たちの「仕事」であり、そんな自分の「仕事」について悩む様をえがいた『SANKAKU』は、ほのぼのとした空気があるにも関わらず、設定があまりにもシュールでつい笑ってしまう。次々と繰り出される斜め上の展開に頬が緩むうちに、気がつくとラストシーンでは暖かな気持ちが訪れている。『SANKAKU』は、極め付きにわけのわからない世界を描きながらも、最終的には感情が日常に還元されるような秀作である。
多摩美術大学在学中にこれを制作した作家の若井は、この作品でこの年のコンペティションをいくつも制覇。2012年春に卒業後も精力的にイラストレーション、アニメーションなどの分野で活動している。


16.これくらいで歌う/the TV show(椙本晃佑)

日本中、世界中のありとあらゆるモニターをザッピングしてゆくうちに、次第にすべての世界が混線してゆく様を緻密な構成とユーモアで描いた「the TV show」が、YouTubeで150万再生を超えるヒット作となる。
ハンサムケンヤのミュージックビデオとして制作された「これくらいで歌う」は、京都を舞台に、ある青年がもがきながらも一日を生きてゆく様を何層にも分裂したキャラクターで描き切った秀作で、第23回CGアニメコンテストにおいては実に6年ぶりとなるグランプリ作品に輝いた。悩んだり失敗したりを繰り返しながらも、そこに生きようとする青年の奮闘をコミカルかつ見事に表現しており、普遍的な人間賛歌を描いた傑作だ。
椙本は音楽に重きが置かれたミュージックビデオを一貫して制作しており、ハンサムケンヤのメジャーデビューに従い、今後もさらに作品数が増えてゆくことが期待される。
角ばった線を用いた、親しみやすくコミカルなキャラクターデザインも魅力的である。


17.nakedyouth(宍戸幸次郎)

ボクシングに打ち込むふたりの男子学生を描いた「nakedyouth」は、大きな筋書きもなく、セリフも一切無いにも関わらず、リフレインする映像と情景描写、そして静謐な雰囲気が、観るものを釘付けにし、最後まで目を離させない。視聴者が次第に気がつかされる「予感」は尺が進むにつれて高まってゆき、ふたりの息づかいは呼応してゆく。
衝撃的なラストシーンは戦慄すら覚えるほどに美しく、思わず息を呑む美麗なグラフィック、卓越した演出はそのいずれもが桁外れであり、日本学生アニメーション史上に残る最高傑作と呼ぶに相応しい作品である。
宍戸はこれ以前にも「童貞かわいや」「かがみのげんおん」などの作品を制作。全ての作品で共通しているあるモチーフがあり、宍戸作品独特の美意識が全編において貫かれている。
宍戸は、東北芸術工科大学卒業後、アニメ会社であるufotableに入社。劇場版『空の境界』、テレビアニメーション『Fate/Zero』などの3D監督を務めている。


18.かなしい朝ごはん(一瀬皓コ)

2006年に発表された「かなしい朝ごはん」は、ある犬の朝食シーンから始まる短いアニメーションだ。なぜか食べながら泣きはじめてしまう犬。懸命に涙をこらえようとする様子だが……。思わず「ウソだろ!」と叫んでしまうラストシーンがあまりにも衝撃的で、絵柄とのギャップも相まって、一度観たら忘れられないインパクトを持つ作品である。
一瀬はこれ以外にも「ウシニチ」など、現在に至るまで数多くの2Dアニメーションを制作。上甲トモヨシとのユニット「デコボーカル」としても活動している。
ちなみに、わかる人だけわかればよいのだが、鏡に映っているテレビ画面の作品は「Lizard Planet(上甲トモヨシ)」である。


19.機動戦士のんちゃんシリーズ(のすふぇらとぅ)

Flashの流行よりすこし早く、ネット上のサブカルチャーにおいて隆盛を極めていた「GIFアニメーション」の中心的作家と言えるのすふぇらとぅは、他の追撃を許さない圧倒的な技術力で数多くの作品を発表。ほとんどの作品に登場する「のんちゃん」のパワフルなアクションが、大きな見所であった。
「機動戦士のんちゃんシリーズ」はその中でも特に人気が高かったもので、8話まで制作された。もともとのすの作品は20秒程度の短いものが主流だったが、次第に長編化。竹熊健太郎がプロデュースし制作され、2010年に完成した『海からの使者』は、実に6年間かけて制作された8分間の作品であり、複数の映画館で劇場公開までされた。


20.ほしのこえ/彼女と彼女の猫(新海誠)

中央大学文学部で国文学を修めた新海は、日本ファルコム在籍中から自主制作アニメーションを始める。初期の作品「囲まれた世界」は3DCGだが、次の「遠い世界」で2Dアニメーションに転向。
1999年、ひとりの女性の日々を飼い猫の視点から描いた「彼女と彼女の猫」は、その圧倒的なグラフィックと印象的なモノローグ、ひとつの作品としての完成度の高さから、登場した途端から「歴史的傑作」と高い評価を受けた。個人製作アニメーションにおいて、ロボットでもアートでもない、現代に寄り添った文学的かつ詩情感ある匂いをもたせた最初の作品となり、その後のインディペンデント・アニメーションの歴史を大きく塗り替えた。
そして日本ファルコム退社後の2002年に劇場で公開された「ほしのこえ」は、その全てにおいて段違いの完成度とスケール、何よりも莫大な作業量のすべての一人でこなしたことで界隈を越えた大きな話題作となり、“個人製作アニメーション”という分野そのものの可能性を世間に知らしめた。
最大の特徴である美麗な背景や、カメラの光を意識した美術制作は、現在のテレビアニメなどにも流入される技術革新の先駆的存在である。また、製作過程を逐次ウェブに公開し、初号公開の時点で既にシアターを満席にしたという功績も見逃すことは出来ない。


21.向ヶ丘千里はただ見つめていたのだった/やさしいマーチ(植草航)

東京工芸大学在学中に制作された「向ヶ丘千里はただ見つめていたのだった」は、観る者を釘付けにする圧倒的なセンスと表現力でひとりの少女の物語を綴っている。次々と起こる狂気に満ちた展開に最後まで目が離せない。印象的な音楽とも相まって壮絶な同作はその全ておいて、思わず何度も観てしまう極めて高い完成度を誇る、日本学生アニメーション史上に残る傑作である。
続く「やさしいマーチ」は、相対性理論の楽曲「ミス・パラレルワールド」にのせて、より音楽と融合した作品が目指された。
どちらの作品でも衝動的な展開と暴力が描かれており、鬱憤とした感情を爆発させるようなテーマを綺麗な線と色で綴っている。その圧倒的なグラフィックのセンスは天才的かつ唯一無二のものであり、石田祐康らと並んで、若手アニメーション作家の代表的な存在である。


22.5iVE STAR(森井ケンシロウ/細金卓矢)

現在は漫画家・アニメーション作家として活躍する森井ケンシロウと、Flash・動画板においておそらく最大の出世を果たした(世界的な映像作家であり、「四畳半神話大系」のエンディング、近作だと「日本橋高架下R計画」で著名な)モーショングラフィック作家の細金卓矢(当時のハンドルネームは「2501」)がコラボレーションし、制作されたのが、Flash・動画板発祥のイベントで初号公開された「5iVE STAR」である。森井のポップなキャラクターに色使い、細金の音と融合した演出やいくつもの見事なアイデアが生かされた、両者の強みが最もよく出た秀作であり、2ちゃんねる発祥の作品としても屈指の名作である。


23.眼鏡(irodori)

自主制作アニメーション・サークルの「irodori」は、毎月20日(のちに1日)に必ず1本の動画を定期的に投稿してゆくというスタイルで次々と作品を発表。第一弾シリーズである「眼鏡」は、眼鏡をこよなく愛する男子学生が、眼鏡に拒絶反応を示す女の子にありとあらゆる手を使って眼鏡をかけさせようとするドタバタコメディであり、軽快なギャグや秀逸な演出、オチが見えない展開が話題を集め、投稿の度にじわじわと再生数を更新。完結篇はニコニコ動画のアニメカテゴリで、デイリー1位にまで輝いた。
第二作の「たれまゆ」は一転して2Dの手描きアニメーションであり、日本とよく似た異世界で繰り広げられる情緒的なストーリーを展開。三作目の「ケムリクサ」はさらに一転し、荒廃した世界で懸命に生き残ろうとする少女たちの物語をシリアスなタッチで描くなど、わずか3作の間で、意図的にばらされたような多彩な作風を見せ付けている。
“バンド”のように作品を作りたい、という趣旨で結成されたirodoriのサークル・スタンスは、自主制作アニメーションにおける新しいスタイルを提示している。
完成した作品はすべてDVD化されており、コミケ、コミティアなどの即売会などで頒布もされている。


24.おいしいコロッケをつくろう!/なぜなにどうぶつらんど(nnm)

子ども向けアニメーションやコンテンツの形態をとりながら、あまりにも理不尽でシュールかつ意味不明な展開が次々と訪れる、不条理ギャグの代名詞的クリエイター……、それがnnmであった。「おいしいコロッケをつくろう!」は、選択肢に従ってコロッケを作っていくという教育向けコンテンツのように見えるのだが、どういうわけか選択肢には次々と理解不能なバッドエンドが訪れてしまう。この作品でnnmは一気にブレイクし、「すっぺらぴっちょん!」などの名フレーズも界隈で流行した。
続き発表された「なぜなにどうぶつらんど」では、頭が痛くなるようなテレビ番組が矢継ぎ早に表示されてゆき、どんどん混沌とした内容になっていってしまうという作品。短すぎるループBGMも相まって、中毒性の高い作品である。


25.せがれ/人面牛(秋元きつね)

もともとは平沢進率いるバンド「P-MODEL」のバックべーシストであった秋元は、平沢の元で学んだAmigaの知識を生かして映像制作を開始。フジテレビの伝説的子ども番組である「ウゴウゴルーガ」に参加し、その名が知られるようになる。以来、CGクリエイターの先駆的作家のひとりとして多方面で活躍する。
それに平行して続けられていた自身のバンド「H'z」の活動においては、音楽とシンクロした自作のミュージック・ビデオをバックで流すなど、オリジナリティのあるライブを展開。そこで使用するバック映像から派生し、1996年に自主制作アニメーション「せがれ」を、1997年には「人面牛」を発表した。不思議なキャラクター造形と意外にも哲学的なストーリー、何よりも唯一無二のアイディアとユーモアに満ちたこれらのアニメーションは、その作品性の高さだけでなく、1996年当時に、いずれも20分以上の中篇アニメーションをひとりで制作していたという事実を含んでおり、この点においても秋元は、現在のパーソナル・アニメーションの一歩先を行っていた存在だったと言えるだろう。
1999年にエニックスから発売されたゲームソフト「せがれいじり」では、これらの作品から生み出されたキャラクターたちが大集結。明快なゲーム性がない、メディア・アートとも言えるこの作品は、このタイプの作品としては異例の17万本を超える空前絶後の大ヒットを果たした。その後も、井上雪子とのユニット「ノラビット!」での作品「ノラトリアム」や、少人数チームで制作された「ヤンス!ガンス!」などで知られる。
また、現在もライブ活動を積極的に展開している。


26.菅井君と家族岩(FROGMAN)

実写の映画監督志望であったFROGMANは、東京でいくつもの映像作品に携わった後、たまたま撮影先の島根で出会った女性と結婚。映像業界を離れて島根に住まいを構えながら、地方発の映像作品制作を志す。
「菅井君と家族岩」は彼の島根移住後最初の作品であり、島根に住む(なぜか全員が黒人の、しかもソウルミュージックの大御所たちの風貌に良く似た)貧乏な家族5人のばかばかしい会話と日々を描いた。その秀逸な脚本と、ブラックな内容ながらどこか親しみやすいギャグセンス、7〜8人以上の登場人物の声をすべてちょっとづつ変えながら自分で充てた中毒性の高いヴォイスも相まって人気作品となり、メジャーレーベルからリリースされたDVDは、自主制作発としては異例の好セールスを記録した。
以来活動の舞台をメジャーに移し、日本初の全編Flash制作によるテレビアニメーション『THE FROGMAN SHOW』、そこで生まれた人気シリーズ『秘密結社鷹の爪』の3本の劇場映画などを次々と手がけた。

27.CATMAN(青池良輔)

今は亡きShockwave.comの人気コンテンツの一つであった「CATMAN」は、擬人化された猫が主人公の劇映画調アニメーションである。場末の街角をさすらうアウトロー、煙草を欠かさない主人公のCATMANをはじめ、全編ハードボイルドな雰囲気や洒落た演出が貫かれており、人の生き方を問うシナリオなども高く評価された。同時代のインディペンデント・アニメーションと比較してもこれらは極めてオリジナリティの高いものであり、年長者から若い世代まで多くのファンを魅了し続けた。
作者の青池はカナダでこの作品を手がけた。現在も主に企業の依頼などを受けて、数々のオリジナルアニメーションを制作し続けている。


28.スイート・スイート・スイートホーム/山田君ロックンロール(熱湯)

秀逸なセリフ回しとユーモアのあるアイデアが光る熱湯の一連の作品は、そのどれもがオリジナリティ溢れるものばかりである。クリスマスイブに預金を引き落とそうとする男性に嫉妬し強烈にまくし立てながら妨害しようとするATMを描いた「ATM1224」、成人式の突っ込みだらけの挨拶を描いた「スピーチ」、セリフを充てた途端にガッカリな展開になってしまう「コークスクリューバレンタイン」などを次々と発表。
代表作である「スイート・スイート・スイートホーム」は、物語の構造がわかった途端に訪れる切ない展開が秀逸。また「山田君ロックンロール」は、当時盛り上がりを見せていたオフラインでの上映を想定し、音楽に合わせて点滅し会場の拍手を誘う「拍手インジゲーター」を導入。さらに「アメリカンホームコメディ」ではこれを深化させ、シットコム風の形態をとりながら、影の人物がカンペを出して会場の聴衆に強引に笑い声や拍手を誘い、それを録音してアニメーションと合体させ、ウェブに完成版として公開するなど、現在も色あせない見事なアイディアが光る労作であった。現在においても知名度は低いが、もっと評価されるべきアニメーション作家の一人である。


29.quino(ポエ山)

2ちゃんねる系Flashアニメーションの代名詞的存在であり、空前の大ヒットを飛ばした人気シリーズ「ゴノレゴ」(「吉野家コピペ」が最も有名である)の作者であるポエ山が、2001年から2002年にかけて制作した自主制作アニメーションが「quino」である。
「ゴノレゴ」とはあまりにも違う愛らしいキャラクターの描写と、科学者との切ない逃避行を描いたストーリーが話題となった。Flashによるキャラクター・アニメーション制作の手軽さと、ビットマップで描いた緻密な背景描写の融合は、その当時のFlashアニメーションのハイクオリティ化における、ひとつの目標となった。
その印象的なBGMは現在においても人気が高く、2011年になってからダウンロード版のサウンドトラックも新たにリリースされた。


30.ステイタス/山と人/夢(新海岳人)

自主制作アニメーションにおける「もうひとりの新海」といえば新海岳人である。ほとんど動かないイラストレーションで展開される、登場人物たちの会話からストーリーが紡がれる「会話劇アニメーション」の代表的作家としれ知られる。初期の作品「夢」は、夢と現実の境があいまいになりつつある主人公とバクのとぼけた会話がユーモラスで、文化庁メディア芸術祭アニメーション部門においては奨励賞まで受賞した。
「山と人」は擬人化された山と人の独白で全編が構成されており、思わずクスッとなる言葉遊びと、終盤は一転して切ないストーリー展開が見事。「ステイタス」は、その人間のステータスを10段階であらわした数字がキャラクターとしてそのまま登場し、たったひとつのアイデアを徹底的に突き詰めた軽快な展開と極めて秀逸な脚本が見事な傑作である。
現在は商業作品も手がけ、テレビでも放映されている「かよえ!チュー学」シリーズはその多くをYouTubeで鑑賞することが出来る。本当に脚本の力で笑わせることが出来る数少ない作家のひとりである。


31.Please say something(David OReilly)

アイルランド出身のオライリーは、動画圧縮の際に起こるバグのようなビジュアルを彷彿とさせる、独自の作風をもつ。
意図的に荒っぽくモデリングされた3DCGアニメーションの「Please say something」は、猫の妻とネズミの夫の間に起こる様々な夫婦問題を、時間軸を飛び越えながら10分00秒00コマぴったりに纏めている。天才的なカット技術に猛烈なテンポ、何よりも登場人物たちの葛藤がダイレクトに映像に反映されるダイナミックな展開が圧巻の作品である。なお、Vimeoの公式アカウントには、セリフが日本語翻訳されたバージョンもアップロードされている。
驚異的なスピードで作品制作することでも知られ、実作業はわずか数週間という作品も存在している。
ちなみに、2012年のベルリン国際映画祭で銀熊賞を受賞した『グレートラビット』の監督である和田淳に賞を手渡したのが、審査員として参加していたオライリーであった。


32.デンキネコ(中村犬蔵)

デザイナー・イラストレーターである中村犬蔵が、長年にわたり趣味として作り続けているのが、昭和特撮映画のオマージュに溢れた人気シリーズ「デンキネコ」である。
90年代後半からほぼ変わらないデザインの、機械仕掛けの(ように見える)デンキネコたちが活躍する一連のシリーズは、主に自主映画サークル“映像温泉芸社”の上映会などで発表。「デンキネコ」のみでも200人以上を動員するほどの人気作品にまで成長し、現在までに20本以上のシリーズが発表されている。2000年にはCD-ROM「デンキネコ2号」をリリース。それに収録された新作短編では、“はっさく”を追い求めるデンキネコたちのくだらないショートムービーも新録された。また、プロ声優を用いた長編作品『デンキネコ 日本列島改造計画』は、DVDでリリースされている。
その長いキャリアや根強い人気とは裏腹に、「自主制作アニメーション」の枠で語られることは意外に少なく、もっと評価されるべきアニメーション作家のひとりであると言えるだろう。


33.魔王のセカイ/りれきしょ。(久海夏輝)

Flashアニメーションにおける多間接アニメーションの正当な後継者である久海は、オンラインゲームのアバターを先取りしたような可愛らしい絵柄を駆使して、ドラマ性の強い作品を数多く発表している。魔王が自らダメダメな勇者を鼓舞し、自分を倒してくれるように背中を押す「魔王のセカイ」は40分間という異例の長編となり、応募したCGアニメコンテストにおいては一旦選外となったが、運営スタッフの熱い支持におされ「外伝大賞」を受賞した。
久海はそれ以前にもFlash作家としてのキャリアが長く、RADWIMPSの楽曲にのせた「有心論〜You&I〜」や、履歴書をめぐるユーモラスなアニメーションが展開する「りれきしょ。」などを制作。特に後者は、個人的にもいろいろ悩んでいた時期に背中を押してくれた、暖かなメッセージをもつ秀作である。
「魔王のセカイ」に続く現在も、楠木とのユニット「スタヂオヒマつぶし」で作品を展開している。


34.229(丸山薫)

どちらかというと漫画家・イラストレーターとして知られる丸山は、Flash黄金期のもうひとつの中心地であったコミュニティサイト「Bak@Fla」において、いくつかのアニメーションを投稿。自身のイラストレーションの技術を生かした美麗なグラフィックと愛らしいキャラクターは、ベクターベースでの作画が多かった当時のFlashアニメーションにおいては特出していて、多くのファンを得た。特に「229」はその代表的な作品のひとつであり、自身が得意とする中華風の世界観が愛らしい秀作である。
2005年には一転して和風の短編アニメーション「吉野の姫」を発表。JAWACON2005で初号公開され、そのFlash離れしたクオリティの高さから大きな話題となった。
「229」にも登場するレンレンが主人公のもうひとつの短編作品「星宿海」は、2004年に初期版が公開され、ルンパロらが中心となって運営された上映イベント「move on web.」で全国を巡回。以来公開はされていなかったのだが、2012年になって、初号以来実に8年ぶりにネットで全編が公開された。


35.MY HOME(児玉徹郎)

新海誠を輩出した、国内で最も古い歴史を持つ「CGアニメコンテスト」は、「彼女と彼女の猫」以来グランプリがなかなか出ない状態が続いていた。その均衡を破り、高い支持を得て5年ぶりのグランプリを獲得したのが、児玉によるアニメーション作品「MY HOME」である。
町中のとある広告を見た3人のホームレス。3人は夢を膨らませながら、力を合わせて「ひとつの家」を作り上げるが……。何度でも夢は描ける、というメッセージを見事な演出とストーリーで表現した傑作である。作者からみる3人へのまなざしが暖かい。
児玉はその後もアニメーションに携わっており、テレビアニメ「荒川アンダーザブリッジ」のオープニング制作、「くまのがっこう」劇場版の監督、「やさいのようせい」の美術監督などで精力的に活動している。

36.電信柱のお母さん(坂元友介)

人形アニメーション、切り絵アニメーションの手法を高校在学中から身につけた坂元は、「在来線の座席の下に住む男」でデジスタアウォード2004のグランプリを獲得。それ以後も数々の短編アニメーションを手がけている。
特に傑出している「電信柱のお母さん」と「蒲公英の姉」は、どちらも家族の複雑な愛情を丹念に描きながらも、物悲しい結末で観る者に深い余韻を残す秀作である。「電信柱のお母さん」は、電柱の下に捨てられてしまった赤ん坊を電信柱が育て上げてゆくというストーリー。最後に訪れるまさかの「大・どんでん返し」が観客の胸を締め付ける。
坂元は、現在は東北新社企画演出部に所属するディレクターとして活動している。


37.夏と空と僕らの未来(井端義秀)

教室の机の上に(よりによって)ラブレターを置き忘れてしまった男子学生。しかしその教室には先客がいて……。未だに“あるアイデア”の秀逸さが語り草となっている「夏と空と僕らの未来」は、その全編が漫画のコマ割りのように作られている。セリフも吹き出しやト書きで表現され、登場人物たちの配置はコマで割られている。ところが作品が進むにつれて、次第に登場人物たちは自由奔放に動き回るようになり、アニメーションのダイナミズムとマンガの技法が見事に融合した映像世界へともつれ込んでゆくことになる。
ひとつのコンセプトを貫き通した全編にわたるアイディアの数々と、瑞々しくも未来に願いを託そうとする切ないシナリオ、そしてその物語を盛り上げる卓越した演出力が感動的なラストシーンを生み出した。井端はこの作品で、数多くの賞に輝いた。
井端はその後アニメーションの演出家としてのキャリアをスタートさせ、「やさいのようせい N.Y.SALAD」での絵コンテをはじめ、現在に至るまでWeb・テレビアニメ、OVAなどをいくつも演出している。

38.YUKINO(森野あるじ)

「Bak@Fla」などを中心に掲載された森野の一連の作品群は、西洋風のファンタジックな世界観で多くのファンを魅了した。
特に、大星獣と魔法使いの交流を描いた「つきのはしずく」は彼の代表作である。作中における独特の文字配置・テロップは特に印象的で、「森野フォロワー」の作品群はこの文字配置により一瞬で分かってしまうほどであった。
そんな中発表された新作「YUKINO」は、世界観こそ「つきのはしずく」と共通するものの、逆に大星獣を排除しなければならない超未来を描き、そのシリアスな展開で当時のファンに衝撃を与えた。想像力をかきたてられる世界観と、重苦しくも親しみの持てる色遣い・デザインは現在においても色あせてはいない。この作品は、特に中高生を中心に熱く支持され、多くの者をFlash制作へと導いた。


39.部屋(ウィスット・ポンニミット)

タイ王国出身のウィスット・ポンニミットは、「タムくん」の愛称で知られる漫画家である。日本では「ブランコ」などの作品で知られる。小学生のノートのらくがきのような簡単な絵柄にも関わらず、どういうわけか強烈に郷愁を誘う、甘酸っぱくノスタルジックな世界観が多くの日本人の心を掴んでいる。
そんな彼は自主制作アニメーションもいくつか手がけており、その成果は「タムくんアニメ イエロー」などの作品集にまとめられている。特に、収録作の「部屋」は、ひとりの男の一生をずっと俯瞰したままの構図で淡々と描き続けるというもので、本人によるライブ演奏とのシンクロも相まって、極めて感動的なラストを迎える。魅力的なイラストレーションと拙い作画技術が、何倍にも情緒を増幅させている傑作である。
その他、アニメーションではSAKEROCKのPV「インストバンド」などで知られる。

40.Rejected/It's Such a Beautiful Day(Don Hertzfeldt)

アメリカ・カリフォルニア出身のアニメーション作家であるハーツフェルトは、鉛筆でざっと描きなぐったような絵柄と強烈な作家性で、本国アメリカを中心に世界中で熱狂的なファンを持つアニメーション作家である。
特に、アカデミー賞短編アニメーション部門にもノミネートされた「Rejected」は衝撃的で、次々と訪れる理不尽でグロテスクな描写、後半に訪れる怒涛の展開、そして中毒性の高い意味不明なセリフの数々が印象的な秀作だ。
2006年からは「Everything Will Be OK」に始まる3部作の長編作品制作が始められ、2011年に発表された「It's Such a Beautiful Day」をもって無事完結した。「Rejected」とは対照的に、脳の病に冒されてゆく主人公の独白をシリアスかつ文学的に描き、その男の最期に至るまでのあらゆる感情・記憶からなる映像の洪水が、観る者の感情をぐらぐらと揺さぶる傑作である。
2012年秋に、本国では二本目となる作品集「DON HERTZFELDT VOLUME TWO:2006-2011」が発売予定。
日本では2012年7月に、国内初公開となった「It's Such a Beautiful Day(邦題:なんて素敵な日)」を含む3部作が一挙上映され、熱狂をもって迎え入れられた。

41.ひとりだけの部屋/空想少女(野山映)

「えぬ」名義で多数の作品を発表してきた野山は、ややグロテスクな程に徹底的に描き込まれたグラフィックにその強みを持つ。
絵本の空想から次々と映像が溢れ出す「空想少女」は彼の代表作であり、奇妙なのにどこか惹かれるイラストレーションと世界観を存分に楽しむことができる。
2010年に発表された「ひとりだけの部屋」は、永遠に続く密室に閉じ込められた鶏頭の少年が、ある切実な「凶行」を起こすまでを描いた作品。ループする想いを真摯に描いた、切なさに胸が締め付けられる傑作である。ショッキングなほどに腑に落ちる見事なラストカットも印象的だ。
野山は、もともとFlash作品からキャリアをスタートさせており、ビットマップをさらに圧縮した画質がもたらすギラギラした質感は、作品の異形さをより引き立てていた。
現在は「えぬ」を含む2人組の「花蟲」というユニットで活動しており、ネット上ではオリジナルグッズなども販売している。

42.ぼくらの風(外山光男)

手描きされたイラストレーションを特殊な照明下で撮影し、独特のやわらかな光加減で質感を表現する外山の作品は、観る者をゆっくりと幻想的な世界へ誘う。初期の代表作「ぼくらの風」でデジスタ・アウォード2005グランプリを獲得。
外山作品最大の魅力はそのリリカルな世界観であり、淡々と紡がれる言葉、キャラクターたちの息遣い、そして印象的な音楽(その多くを外山自身が手がける)が、観る者をやがて心の中の旅へと誘う。現代とは隔絶した心落ち着く情景描写と、その裏側にあるひんやりとしたものが映像の中で見事に同居・融合しており、その卓越した作家性が数多くの人々の心を掴んで離さない。
また多くの作品で展開される「何語でもない」ナレーションも素晴らしく、異国情緒や夢の中のような世界観をより強く引き立てている。
現在も、オリジナルアニメーションをはじめ、NHKやムーンライダーズからの依頼で数多くの作品を発表。また“noble”というレーベルから、作品集「珈琲の晩」が発売中。

43.電車かもしれない(近藤聡乃)

近藤が多摩美術大学在学中に、「好きな曲にアニメーションをつける」というテーマの課題で制作されたのが「電車かもしれない」である。たまの同名楽曲がもつ異様な世界観を、シンメトリーを駆使した少女たちの踊りで表現している。するりと動く独特のアニメーションに繊細な少女たちのイラストレーション、たまの世界観に合った緻密な背景描写、何よりも音楽と完全にシンクロした世界観は高く評価され、デジスタ・アウォード2002においてはグランプリを獲得した。未だにファンを獲得している名作ミュージック・ビデオである。
近藤はその後、卒業制作として「てんとう虫のおとむらい」を発表。こちらの音楽は、前述の縁から元たまの知久寿焼が手がけた。
現在はニューヨーク在住。アーティストとして活動している。近年では、5年ぶりとなる新作アニメーション「KiyaKiya」が2011年に公開された。



※これらの登場人物はすべて、往年の自主制作アニメーション・キャラクターたちの「コスプレ」をしている“別人”という設定です。
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